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終活関連お勧め本④ 『ボクはやっと認知症のことがわかった』

自らも認知症になった専門医が伝えたいこ

 著者の長谷川和夫医師は、日本における認知症研究の第一人者です。
 長谷川先生は、「長谷川式認知機能簡易スケール」を開発して、認知症の早期診断を可能にしました。
 また、以前は「ボケ」や「痴呆」と呼ばれていた名称を「認知症」と改めたのも長谷川先生たちの提唱によるものです。
 こうして認知証研究の先駆者として歩んできた長谷川先生自らが認知症になった立場から日本人に伝えたい遺書として記したのが本書です。
 
 研究者としてではなく、自身が認知症になって初めて、その心の奥底から湧き出てきた当事者の不安や苦悩に気づいたと言います。
 長谷川先生は「自分自身がだんだん壊れていく」という表現をしています。
「生きていく確かさが少なくなっていく」という感覚は、当事者でなくてはわからないものでしょう。
 認知症になった自分自身を知ることで、研究者としては知り得なかった当事者の心の内を伝えたいと試みています。
 2017年に認知症を発症し、患者と研究者の間で揺れ動いてきた長谷川先生の思いは「認知症を生きていく上で大切なものは何か」という問いかけになっていきました。

失われていく「確かさ」を補うもの

 本書が刊行された後、NHKの報道番組で長谷川先生の特集がありました。 
 長谷川先生は日々失われていく「確かさ」に抗うように行動していきますが、これを支える介護者である妻や娘の負担も日に日に増していきました。
 40年前に、認知症高齢者の活動性の確保や介護者の負担軽減のために、医師として推進してきたデイサービスに自ら行くことになって感じたのは、意外にも孤独感でした。
「デイサービスに行って皆が楽しそうにしていても、自分はひとりぼっち」「デイサービスに行ってもつまらない、行きたくない」というのが偽らざる心境でした。
 娘の「父さんがデイサービスに行けば、母さんもその間は休めるのだから」という言葉に理屈では分かるという態度を示しながらも、結局デイサービスを止めてしまいます。
 有料老人ホームのお試し宿泊もしましたが、「僕ははやく戦場(自宅の書斎)に戻りたい」と訴えます。
「僕が死んだら、家族はホッとするだろうね」という一言には胸が締め付けられます。
 症状が徐々に進行していくなか、「僕の生きがいはなんだろう」とつぶやきます。

 自分自身のあり方がはっきりしないなかで「妻がいつも一緒にいることが唯一確かなことで、あやふやな確かさが少しは戻ってくる」と、長谷川先生は話します。
 傍らで「主人は認知症になっても、いつも周りの皆を楽しませようとする人柄は変わらない」と、妻は微笑みながら言いました。
 本書は認知症を扱う数多の類書の中でも、研究者で当事者、両方の立場で記されたものであるがゆえに、その意義は大きいと感じました。
 長谷川先生はかつて、認知症研究に携わる先輩研究者から言われました。
「君が認知症になって、はじめて君の研究は完成する」と。
 番組の最後でインタビューに応えた言葉がとても印象に残りました。
「認知症になっても見える景色は変わりませんよ」