BLOG ブログ

介護施設の選び方

在宅介護から施設利用へ

 松井芳雄さん〈仮名、以下人物は全て仮名〉の妻敏子さんは、夫の在宅介護を始めて5年目になります。 
 今回芳雄さんの介護保険が2度目の更新で要介護4から要介護5になりました。
 以前はテーブルにセットすれば自分で食べられた食事も、今は利き手の拘縮が強く、敏子さんが介助しながら食べさせています。
 排泄もベッド上で行います。
 昼間はデイサービスのない日は日に2回ホームヘルパーに入ってもらっていますが、夜間は敏子さんがやっています。
 夕方ヘルパーさんが来てくれ、夕食が終わった後寝る前にオムツの尿取りパットを交換するだけですが、敏子さんにはかなりの重労働です。
 敏子さんは最近腰痛もひどくなり、身体的負担はかなり厳しくなっていました。
 ケアマネジャーの鏑木さんは敏子さんに言いました。
「敏子さん、今までご主人の在宅介護を頑張ってこられたけれど、そろそろ施設入所を考えられた方がいいのではないですか。このまま続けて、敏子さんが倒れられたら、大変ですよ」
 敏子さん自身も、最近身体的負担のみならず精神的に参っていたので、このまま在宅で介護を続けていくのは難しいのではないかと思い始めたところでした。
「鏑木さん、ありがとうございました。それでは、少しずつ夫の施設入所について考えていこうと思いますので、宜しくお願い致します」
「入所施設は色々ありますから、市内にある施設の一覧表を置いていきますので、見ておいて下さいね」

介護保険施設

 敏子さんは施設のことは全く分かりませんでしたが、鏑木さんから渡された一覧表を一目見て驚きました。
 ぱっと見ただけでも、市内に50以上の入所施設がありました。
 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、軽費老人ホーム等々。
 その中身は、施設ごとの概要説明を読んでもよく分かりませんでした。
 月額の利用料も8万円位から25万円以上までまちまちでした。

 次に鏑木ケアマネジャーが訪れた際に、敏子さんは尋ねました。
「先日いただいた施設の一覧表を見ましたが、どこがいいのかさっぱり分かりません」
「そうですよね。ご主人の状況から適当と思われる施設は、特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅の3つです」
「このうち特別養護老人ホームは介護保険前からある施設で、あとは殆どが介護保険後にできた施設です」
「介護保険前からある特養には多床室(2人以上が一緒の居室)があり利用料も月額7,8万円ですが、新しくできた特養は14,5万円かかります。あと2つの施設も15万円以上のところが多いですね」
「多床室の特養は安価なので、人気があり、入所申込希望の待機者も多くなかなかは入れません」
「K市に特養は7つありますけど、多床室があるのは2つだけです。経済的に大丈夫なようなら、個室の特養か有料ホームでいいかと思います」

施設選びのポイント

 鏑木さんの話を黙って聞いていた敏子さんは言いました。
「利用料のことはよく分かりました。それでは、どの施設が良い施設か教えていただけますか」
「確かにご家族としては、ご本人のために良い施設を選びたいですよね。ただ、なかなか施設選びは難しいところもあります」
「私たちケアマネジャーは仕事柄、施設の評判を聞くことはありますが、あくまでも個人の判断なのでそれを鵜呑みにするわけにはいきません」
「現に同じ施設を、良く言う人もいれば、悪く言う人もいます。でも、施設選びにいくつかの目安になることはあります」
「まず、ご家族が実際施設を訪ねてみることです。施設に入って、入居者の様子を見ます。入居者同士、よくおしゃべりしたり、元気な人がたくさんいらっしゃる施設は良いですね」
「反対に、ぼうっとしていて活気がない利用者が多い施設はあまりお勧めできません」
「次に、職員スタッフの入居者への係わり方を見ます。優しく丁寧に対応しているか、業務をこなしているようにしか見えないか。これは素人でも見れば直ぐに分かります」
「それから、スタッフ同士が現場で声掛けあって元気よくやっている施設なら選んで間違いありません」
「こうした視点で見れば、ある程度間違いない施設選びができると思います」

 敏子さんは、鏑木さんのアドバイスをもとにいくつかの施設を見学して、ある特養に決め、申込をしました。
 申込んでから半年後に入所が決まり、芳雄さんは入居しました。
 入所後も、敏子さんは週に1度は欠かさず夫の面会に行きました。
 若い女性スタッフに優しく介護してもらい、夫は自宅にいた時より血色も良く、元気になったように見えました。

 敏子さんは腰痛もなくなり、最近始めたゲートボールを近所の仲間と楽しんでいます。