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明日への終活③

5.生前に遺産分割対策を

相続が「争族」になるのはお金持ちより普通の家庭です。相続争いの8割近くが遺産5,000万以下で起きています(2018年度相続調停・裁判数15,706件。遺産額は1,000万以下が33.0%、5,000万以下が76.3%)。
相続対策は、遺産分割対策、納税資金対策、相続税対策の3つです。
第1に行うべきは遺産分割対策で、大事なのは生前に家族で話し合うことです。また、相続に詳しい専門家を交えて家族会議を行い、決定事項を遺言書に残す方法もあります。
遺言書がある場合は、遺産を残す人の意思で好きなように分配が可能です。
ただし、遺留分に注意が必要です。遺留分とは、残された家族の生活を保障するために最低限の金額を相続する権利ですが、必ず権利を行使する必要はありません。相続時に遺留分を侵害した場合には、相続人により「遺留分侵害額請求」ができます。その請求期限は、相続の開始を知った時から1年です。
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合い、遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成して、遺産を分割します。ただし、相続人以外へ相続は出来ません。
相続税を算出する際の基礎控除額は、3,000万に加えて相続人1人あたり600万です。基礎控除は3,000万+600万×法定相続人の数です。配偶者と子供2人の場合は、3,000万+600万×3人 = 4,800万となります。遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額に規定の税率を当てはめて、相続税がかかります。実際に相続税を納めている人は、100人中 8名ほどです。
相続は、被相続人のプラスの財産も借金も全て相続する「単純承認」、被相続人のプラスの財産も借金も一切相続しない「相続放棄」、被相続人のプラスの財産の範囲で借金を引き受ける「限定承認」の3つから選びますが、何もしなければ「単純承認」になります。
相続放棄や限定承認を選ぶ場合には、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述します。財産、負債が未確定の場合は、家庭裁判所への申し立てで、3か月の期間の延長が可能です。相続税の申告と納付は、同様に10ヵ月以内に行います。
生命保険は、特別に分離された「みなし相続財産」とされ、遺産分割協議書には記載せずに、遺言抜きで受取人を指定できるので、よく相続対策には利用されます。
また、資産の相続税評価額を抑えるために、不動産に換える相続税対策もあります。相続財産の価値を計算する際に、土地や建物の価値が実勢価格よりも安く評価される原則(土地・建物は相続税路線価や固定資産税評価額を基準にする)を利用して、賃貸用の不動産を取得する人もいます。

6. 認知症の親の家売れない

山内和子さん〈仮名、以下人物は全て仮名〉は80歳。5年前に夫を亡くし、現在S県内にある和子さんの名義の自宅に一人で住んでいます。52歳の一人娘いずみさんは家族と都内に住んでいました。
和子さんは2年程前に認知症を発症し、当初身の回りのことは自分で出来ましたが、最近は自宅で入浴も一人でできなくなり、担当のケアマネジャーからは、これ以上在宅での独居生活は無理があると言われました。
いずみさんは母の施設入所を考えるしかありませんでしたが、ケアマネジャーに紹介された認知症対応グループホームの月額利用料は15万円以上で、入所すると母の預貯金はじきに底をついてしまいます。いずみさんは実家を売却して施設費を捻出しようと考え、地元の不動産屋に相談しましたが、名義人である母が認知症で契約ができないため売却できないと言われました。
いずみさんは「それではどうしたら自宅を売ることができるのですか?」と問い返すと、不動産屋は言いにくそうに応えました「娘さんには申し訳ないですが、お母様が亡くなり、娘さんが相続してからなら売ることはできます」いずみさんは暗澹たる気持ちになりましたが、なおも尋ねました。「ほかに何か方法はないのですか」「私も詳しくは分からないのですが、成年後見制度というのを使うと売買することができると思います」と教えてくれました。
いずみさんは、成年後見制度について話を聞くため、実家のK市にある成年後見センターを訪ねました。「成年後見制度」は、認知症等で判断能力の低下した人に成年後見人等をつけて、契約などの法律行為を代わりに行ってもらうものです。家庭裁判所が選任した成年後見人等は「財産管理」と「身上保護」を行います。「財産管理」は本人(被後見人といいます)が所有する預貯金・不動産・有価証券等全ての財産を管理し、本人のために支出します。「身上保護」は病院に入院したり、施設に入所したりする時に、本人に代わって手続きを行うものです。
いずみさんは成年後見センターの相談員に尋ねました。「うちの母は成年後見制度を利用できるのでしょうか? もしできたなら、後見人に実家を売却してもらうことはできるのでしょうか?」相談員は応えました。「成年後見制度を利用するのに申請することはできます。でも申請理由が実家を売却するためというのはダメです。成年後見人はあくまで本人に必要な支出かどうかを考えて支出をするか否かを決めます。家族の都合で決めることはできません。ただし、不動産を売却する必要があると後見人が判断し、裁判所に申し立てをして許可されれば売却することができます」
和子さんが成年後見制度を利用始めて一年後、後見人の申し立てにより実家の売却ができました。